メイクとファッションに“ルールを設けない”
前編はこちら
添さんの“らしさ”を探っていきたいのですが、いまハマっていることは?
数日前に『アメリカン・ホラー・ストーリー』というドラマシリーズの、シーズン3の切り抜き動画がインスタのリールで流れてきて、ファッションがかわいいと思って観ました。ドラマ自体は長いシリーズですが、シーズン3は魔女の寄宿学校に通う子たちの話で、ちょっと葬式チックだけどモードみたいな感じの、現代魔女のようなファッションに惹かれて。ファッションに関して最近は白が好きだったのに、観たあとは「やばい、黒好きになりそう」と思いました。
「ホラー」は、ご自身を構成する重要なファクターのようですね。
やっぱりビジュアルに惹かれますね。あとストーリーに関しては、ロマンを感じられるかが重要です。シリアルキラーのような、動機がない存在は嫌い。人を襲うなり、怖がらせるなりの動機や背景があった上で、こんなに醜いモンスターになってしまったっていうことが、ちゃんと描かれている作品が好きです。さらにそういう要素に沿って、衣装やメイクや小道具など、ヴィジュアル面がデザインされていたらもっと好き。作品を観て得られる感動はやっぱり大きいです。
続いて、メイクの原点にあたるエピソードがあれば教えてください。
メイクの原点となっているのは、『サイコブレイク』(2014年)というタイトルのサバイバルホラーゲームです。自分にとって本当に一番好きといっても過言ではないゲームで、精神病院で起こった大量死亡事件をモチーフに、刑事が殺人犯の精神世界に入ってしまうというストーリーで、ゲームを進めるにつれて、現実で起きるはずのない出来事が次から次へと起こっていきます。
プレイヤー自身も錯覚したような状態になり、ずっとトリックアートを見ているみたいな感覚になるゲームで。自分はそれに出てくる精神患者のキャラクターがすごく綺麗に見えて好きになり、人工的にでも自分もそのキャラクターになりたいと思ってメイクを始めました。
メイクに関して、大切にしている考えやこだわりはありますか?
やっぱり多くの人にとって、大前提でメイクにおける重要なことは「盛れるかどうか」だと思うのですが、せっかく気づけたかもしれない大事なことを逃している人も多いと思います。
例えば友達に「こういうメイクの方がかわいいと思う」と言われたとして、「私は今の方がいい」とか答えつつ、1ヵ月後に彼氏から「こっちのメイクが好き」と言われてそうするとか。きっかけを自分の執着やこだわりで失っている人が多い気がしていて。だから自分はメイクに関してルールは設けずに、似合わないかもしれないけど、とりあえずやってみるマインドでいます。
自分は周りの人たちに、「メイクが毎回違う」と言われることが多くて。吊り目にするときもあればタレ目にするときもあるし、まつげを白くしたり、そばかすを描いたり、下地からすべて変えることもあります。それは自分の精神状態もきっと影響していると思いますが、そのときに一番なりたい自分像のようなものを忠実に再現したい──そんな気持ちがベースにあります。
最近のメイクの気分は、「アイラインを引いたところまで目」。いくときは涙袋まで引きます。
メイク同様に、ファッションにおけるこだわりを教えてください。
ファッションに関しても、自分自身の生き方として、ファンタジーの世界で生きているような存在になりたい欲が強いです。自分の中にある人間性や、社会で生きていると出くわす群れみたいなものにとらわれたくないですし、自分は逸脱した存在でいたい。僕みたいな存在は、多数派の目からは気味悪がられるかも知れないけど、自分にとってはそれが逆に気持ちいい。
あと着たい服はメイクと一貫しています。強い気持ちのときに着たい服やしたいメイク、逆に干渉しないでほしいときに選ぶ服やメイクがある。その時折でなりたい自分が最初に決まっているので、それと違う服やメイクを見ても、そのときは魅力を感じないかもしれないです。
「いい意味で期待しない」という自分らしさ
添さんにとって、自身の“らしさ”はどこにあると思いますか?
例えばメイクに関しては、トリックアート的な要素もあると思っています。自分の持てる画力を駆使していかに騙し絵を作れるか──みたいな。配信でメイク動画をやっていますが、あれも観ている人たちに可能性を感じてもらいたくてやっています。自分もすっぴんは全然違って、これがこうなったんだよっていうのを分かってほしいし、それを教えられたら一番いいなって。
自分はたぶん一般的な常識の外にいるメイクをしているけど、それがきっかけで、ルールなんてないって思ってくれたらうれしい。近々、コミュニティ会員ではない方でも観られるメイク動画をUPするのでぜひ観てほしいです。メイクの前後で、まったく違う人間になっているので。
活動へのインプットに繋がるリフレッシュ方法はありますか?
“夜間ピクニック”です。何時であったとしても外に出る。やっぱり人間が病むときの相場は夜で、今日は何もかもうまくいかなかったってときや、思い出したくないことがフラッシュバックしたときに、家にいたら絶対に病む。そんなときに人と会っても、会っているときは良くても、お別れしたあとは自己嫌悪に陥る。そんなとき自分は“夜間ピクニック”をするようにしています。
どんなに遅い時間でも超メイクして、超おしゃれして、そのときどきの気分に合う曲を聴きながら、コンビニでおにぎりとかサンドイッチとか甘い飲み物とかを買って、公園に行って無心でピクニックをする。それもあって家も近くに公園がある場所を探すようにしています。精神的に良くて、自分にとっては必要な時間ですね。
みんなに教えたい、または注目している最新トレンドはありますか?
先ほどの話にも繋がりますが、リバイバルが好き。最新と言われると違うのかもしれませんが、リバイバルやビンテージにはずっと興味があります。当時の服を身に纏うことで、違う時代にタイムスリップしたような感覚を味わえる。今の時代や自分から抜け出せる逃避のようで。
あとリバイバルは発信力のある方によって、再びブームが訪れたり、需要が生まれたりもする。例えば今日着ているのも、60・70年代の奇妙なフランス映画に出てくるような服で、そこから時代背景やアイテムの歴史に興味を持つという過程もすごく好きです。自分は返ってくるトレンドがやっぱり好きで、どちらかと言えば新しいものより古いものが好きなのだと思います。
添さんは10年後、どんな未来、どんな自分を想像しますか?
まず20代のうちは自分にとことん構おう、自分のやりたいことや気持ちに正直に答えてやろうと考えていました。10年後の自分は33歳になっていますが、30代になったら意識しようと思っていることがひとつあります。それは自分以外に視野を広げて、すべて自分以外にしたいということ。身内や友達じゃなくても、人のために生きたい。言葉、見た目、考え方のすべてに説得力を持たせた上で、自分より下の世代の若い人たちを助けてあげたいという想いがあります。
あとはいい意味で自分に期待しない。大事にしようとしすぎると、失う怖さがついてくる。最初から期待せずに、あとから大事になればいいと考えるのが、自分らしさなのかもしれません。
吉井添という次世代を象徴するアイコンの魅力や、異質なクリエイティブに迫った前後編のインタビュー。ただしこれだけ話を聞いても、吉井添の全貌を明かせるわけもなく、むしろ明かせないという事実こそが、彼が可能性に満ちた発展途上の存在であることを証明している。果たして吉井添はどこへ向かい、どんな方法で自らを表現するのか? このインタビューを読んでいるすべての人が、彼がこの先、自由自在に羽ばたいていく姿を見届ける生き証人となることだろう。
Photo:Ryoma Kawakami
Interview&Text:ラスカル(NaNo.works)
吉井 添
Yoshii Ten
2001年11月11日 東京生まれ、長野育ち。 2019年からモデル活動を開始し、多くのファッション雑誌への出演、ブランド広告にも起用される。 フォトジェニックな顔立ちと183cmという長身と細身のスタイルを活かし、幅広いファッションを着こなす。 またイラスト画を得意とし、そのイラストがアパレルブランドとのコラボ商品として採用されるなど、多才な才能を発揮する。幅広く活躍するマルチアーティスト。