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大人需要で再燃する「ガチャガチャ」の魅力と、店舗活性化への効果

カプセルトイの成長を背景に、リアル店舗での回遊設計を解説します。

なぜ今、「ガチャガチャ」が再注目されているのか

かつて子どもの遊びだったカプセルトイ(いわゆるガチャガチャ)が、近年大人たちの間で再び盛り上がりを見せており、2024年には全国に700店舗以上ものガチャ専門店が営業するまでになりました。マンガキャラクターやご当地キャラ、キーホルダーなどが長く王道だった一方で、推し活グッズや文具・コスメ系の小物など、親しい人へのギフトや自分へのお守り的ニーズに刺さりやすい商材へ裾野が拡大しています。ショッピングモールや駅ナカ、空港など至る所で専用コーナーを目にするようになり、店頭でガチャマシンを囲む大人の列が見られる場面も増えています。

 

市場規模は右肩上がりで成長し、日本玩具協会の統計によれば、2023年度に国内で約640億円に達しました。これは10年前の約278億円から2倍以上。日本玩具協会加盟メーカーだけでなく、専門店を運営する会社なども含めれば、実際の市場規模は800億円を超えるとの見方もあります。大人の購入増加によってこの勢いは続き、2024年度は(製造元出荷ベースの推計で)約1,410億円という数字も示されています。

海外でもバンダイのオフィシャルショップがシンガポールや香港、米国などに広がり、アジア圏を中心に常設化が進み、観光や街歩きの動線に自然に組み込まれつつあります。

「低価格×サプライズ」が生む“もう一回!”の心理

ガチャガチャ再燃の原動力には、その巧妙に設計された魅力があります。

 

1回数百円程度という「痛くない価格」は、消費者に気軽な挑戦を促します。そしてカプセルを回して出てくるまで中身が分からないくじ引き的な偶然性に、人はつい惹きつけられてしまうのです。小さな当たり外れにもかかわらず脳は心地よい興奮を受け、「もう一回だけ試せば欲しいのが出るかも」という衝動を生みます。こうした変動報酬の心理メカニズムはゲームにも共通するものです。

 

加えて、人間のコンプリート欲求も巧みにくすぐられます。ガチャガチャの景品はシリーズ化されており、全◯種類、色違いやシークレットアイテムの存在など、コレクター心を刺激する仕掛けが満載です。子どもの頃はお小遣いの都合で何度も回せなかった人も、大人になった今なら、ほしいものが揃うまで続けられる。低単価ゆえの罪悪感の低さと、先の見えない偶然性、そしてコレクション欲求の刺激。この組み合わせがユーザーの「もう一回!」を誘発し、リピート行動につながっているのです。

「また来たくなる」を設計する──更新リズムとリトライ誘導

店舗側はお客様に「また来よう」と思わせるための工夫を積み重ねています。中でも効果的なのが定期的な新商品の投入です。現在カプセルトイ業界では驚くほどのスピードで新作がリリースされています。メーカー側もPOSデータを迅速に商品開発へ取り込み、人気の傾向を短期でプロダクトへ反映しており、2024年時点で毎月700種類近くの新商品が発売されているとのデータもあります。

 

「毎週◯曜日は新商品入荷日!」と掲示したり、SNSで新着情報を発信したりする店舗も多く、ユーザーにとって「定期的に覗きに行けば新しい発見がある」環境が整っています。新作の投入サイクルが習慣化すると、まるで連載漫画の新刊や推し活グッズを追いかけるように、ファンは定点観測的に店舗を訪れるようになります。

 

業界全体でもシリーズの継続リリースや定番商品の色違い展開など、計画的な商品展開によってファンの関心を持続させる戦略が取られています。こうした更新リズムの設計により、カプセルトイ売り場は飽きられることなくリピーターを育む土壌となっているのです。

「リトライ」を後押しする導線づくりも大切です。ある専門店では、同日2回目以降の購入に対する割引クーポンを配布した例があります。また、大手アミューズメント企業では専用アプリでポイントを貯めるとガチャ無料券や景品と交換できるサービスを展開しています。例えばナムコのアプリでは、来店チェックインや空カプセルの回収によってポイントやスタンプが貯まり、一定まで集めると特典クーポンがもらえる仕組みがあります。

 

専門店では人気シリーズのコンプリート状況を店頭ポップで紹介し、「残り○種類」「シークレット入荷中!」といった情報を出すことでファンの収集意欲を刺激する場合もあります。さらにユニークな例では、重複した景品の交換サービスを用意する店舗もあります。店内に交換ボックスを設置し、余ったアイテムを入れると他の人が提供したアイテムと交換できる仕組みです。「ダブり」を気にせずチャレンジできるというわけです。

売場で生きる「回したくなる」仕掛け──配置と文脈

ガチャガチャのねらいは、その筐体単体で収益を上げるだけでなく、店舗や施設への来店数と滞在時間の拡大も期待できます。ガチャは短時間の目的滞在を何度も発生させる仕掛けなので、店前通行のライト層を店内回遊へ引き込む力が強く期待できます。

 

ガチャガチャの魅力を最大化するためには、設置場所の戦略が重要です。商業施設の通路や書店の一角にガチャのコーナーを面で導入すると、目的買い以外の寄り道が増える効果が期待できます。訪日外国人が多い施設では、1階の物販フロアにガチャやくじを置くと、外国人の立ち寄りが顕著に増えるという現場からの報告もあります。

 

また、多くの小売店舗において、レジ前や通路の端、入口付近といった人目に付きやすく人が集まりやすい場所にガチャマシンを配置しています。会計待ちの列に退屈しているお客様には、すぐ横のガチャが絶好の時間潰しになり、行列のストレス緩和や離脱防止に役立つとされています。

 

逆に店内の奥まった場所やフロアの隅にあえて設置するケースもあります。その場合、ガチャ目当てのお客様が店内の奥まで歩く動線が生まれ、途中で関連商品(キャラクター雑貨やお菓子、書籍など)の棚に目が留まる機会も増えるのです。

 

店内連動のプロモーションも効果的です。例えば、ガチャの景品として当たり券や割引クーポンを忍ばせておき、出たらその場で店内商品の割引が受けられる仕組みがあります。「当たりカプセルが出たら対象商品10%OFF」といった特典があれば、ガチャを回した興奮がそのまま実際の買い物意欲に転化しやすくなります。

開封体験を共有に変える——UGC導線の設計

開封体験を共有したくなる場づくりも欠かせません。多くのガチャ専門店では、購入後すぐにカプセルを開けて中身を確認できるよう店内に小さな「開封コーナー」を設けています。テーブルやベンチ、照明の整ったフォトスポット、ゴミ箱の設置など、開封のプロセスそのものを楽しめる環境づくりです。

 

カプセルトイの開封の瞬間はSNS映えするコンテンツとして人気があり、ユーザーが商品写真や結果報告を投稿することでクチコミが広がる傾向があります。店舗側も公式ハッシュタグを提示したり、背景パネルを用意したりして投稿を促進しています。

 

こうしたUGC(ユーザー生成コンテンツ)の拡散によってガチャガチャの話題はさらに盛り上がり、新たな来店動機を生む好循環が生まれています。「また来たい」「また回したい」と感じさせる体験は、商品そのもの以上にこうした細やかな設計から生み出されているのです。

ガチャが創出した店舗集客の新たな選択肢

大人需要で再燃したガチャガチャの盛況ぶりは、「低価格の偶発的な体験」がいかに人々を惹きつけ、リアル店舗への集客装置として機能し得るかを示しています。単なる玩具販売ではなく、体験価値そのものを提供する仕組みとして進化したガチャガチャは、現代のマーケティングにおける示唆に富む存在です。偶然性が生むワクワク、集めたくなる心理、それを支える店舗側の工夫――これらを通じてお客様とのエンゲージメントが生まれ、「また来よう」「また挑戦しよう」という継続的な関係性が築かれます。

 

デジタル全盛の時代にあっても、人が実際に手を動かし、驚きと喜びを共有する体験には特別な価値があります。小さなカプセルに詰まった驚きが、人々を店へと足繫く通わせる。その現象から学べるのは、どんなビジネスであっても意味のある体験を設計し提供することで、顧客の心を動かし、ひいては長期的なファンを生み出せるということではないでしょうか。

 

ガチャガチャの復活劇は、モノ消費からコト消費へとシフトする時代において、「もう一度」の気持ちを生み出すマーケティングのヒントを与えてくれます。

 

Text:田中誠司

●プロフィール

 

田中 誠司(Tanaka Seiji) / PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役、PARCFERME編集長

 

自動車雑誌『カーグラフィック』編集長、BMW Japan広報部長、UNIQLOグローバルPRマネジャー等を歴任。1975年生まれ。筑波大学基礎工学類卒業。近著に「奥山清行 デザイン全史」(新潮社)。モノ文化を伝えるマルチメディア「PARCFERME」編集長を務める。

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