CONTACT US

ユニクロのコラボ戦略の特徴:他社との違い

なぜユニクロはここまで幅広いコラボを実現できるのでしょうか。他社に真似できないポイントとして、第一に企画力・編集力が挙げられます。ユニクロは価格のわりに高い品質で知られていますが、それを支えるのが生産機能をほぼ100%外部に委託し、製品企画に全面的に注力するビジネスモデルです。

 

多くの製造業では、自社が求める物理的な製品クオリティ実現のため自社工場の確立に力を入れています。いっぽう、ユニクロは大量販売に根ざした優れたコストパフォーマンスを実現するため、ごく一部の製品を除き自社で生産拠点を持っていません。そのかわり商品企画、デザイン、マーケティングには特に力を入れて、移り変わりの早い服飾トレンドに対応しようとしています。

 

一例として、2003年から継続するTシャツプロジェクトに2007年、佐藤可士和をクリエイティブ・ディレクターに迎えて「UT」ブランドを立ち上げました。そのプレスリリースには「世界中のアーティストやクリエイター、企業ロゴなどの素晴らしい創造性を、ユニクロの企画力・編集力によってワクワクするようなTシャツにして販売する」と記されており、ユニクロは創造的素材の選定からデザインへの落とし込みまで自社で緻密に行う姿勢を示しました。

 

第二に、生産技術力とグローバル展開力も強みです。ユニクロは素材や技術への投資を積み重ね、他ブランドでは実現困難な高機能アイテムを、リーズナブルな価格で作れる体制を持っています。著名デザイナーでユニクロとのコラボでも知られるJWアンダーソンは、「ユニクロは信じられないほど細やかな技術を駆使して服を作っている。私たちでは作れないようなダウンジャケットも、ユニクロなら簡単に作れてしまう」と述べています。コラボ相手のデザイン性を損なわずに高品質・高機能な服を提供できるのがユニクロの強み。またUTは世界展開されることで、海外のファンにもコラボを届ける力を持っています。

 

第三に、「身近さ」の編集ともいえます。ユニクロは通常のブランドコラボとは異なり、ファッション界だけでなくスポーツ選手、映画やアニメなど様々な領域のクリエイターと手を組むことで、幅広い文化を日常に持ち込む試みを行っています。コラボで発表されるTシャツの価格設定(ほとんどが1,500円)も含め、「美術館に行かない人でも、ユニクロなら一度は訪れたことがある」という想定でコンテンツを届けています。

 

つまり、ユニクロのコラボは単なる企画タイアップではなく、文化的価値とストーリーを組み合わせて編集する行為であり、その点が他社にはない特徴なのです。

代表的な成功例: ジル・サンダー「+J」、村上隆「UT」、マリメッコ

ユニクロのコラボの面白さや本質的な価値について、事例を振り返りながら紹介してみましょう。「+J(プラスジェイ)」は、2009年にデザイナーのジル・サンダーとの協業でスタートしたコレクションです。発売当時、低価格路線だったユニクロが、高品質で洗練されたミニマルデザインの服を投入したことで大いに話題になりました。

 

その後このコレクションは2020年に復活を果たし、発売初日に多くのサイズ・カラーが早期完売、オンラインストアは長時間アクセスが集中するほどの反響を呼びました。+Jは、高級デザイナーとのコラボがユニクロのブランド評価を引き上げ、同時に「誰でも手に届く」高品質服であることを示すミッションを体現した成功例といえます。

現代美術家の村上隆とのコラボレーションも象徴的でした。2018年には「ドラえもんUT by Takashi Murakami」を世界19カ国で発売し、村上が藤子・F・不二雄プロダクションと作り上げた展覧会作品をTシャツに落とし込みました。村上・ユニクロ・ドラえもんの三者で「日本発のカルチャーをグローバルに伝えたい」という思いが出発点となったそうです。単なるライセンスの切り売りとは一線を画し、日本文化のアイコンを世界中の人々に届けるという狙いが明確にされました。

 

同じく2018年にスタートした、マリメッコとのコラボも深い印象を残しました。フィンランド発のデザインハウスであるマリメッコは独創的なプリント柄で知られています。ユニクロとの限定コレクションでは、着心地の良いユニクロのベーシックアイテムに、マリメッコ独特の大胆な花柄やストライプ柄をあしらいました。注目すべきは価格戦略です。通常マリメッコの服は30,000円前後(靴下でも数千円)ですが、ユニクロとのコラボTシャツは2,000円前後と破格の価格で提供されました。これはマリメッコにとっては“0が一つ違う”価格帯であり、デザインをより多くの人に届けるための飛び道具的な判断でした。両ブランドの「毎日の暮らしを楽しくする」というコンセプトが合致していたことも奏功し、コラボ当初からマリメッコ柄Tシャツは人気アイテムとなりました。

これらのユニクロのコラボには、文化的背景を巧みに組み合わせ、かつ大衆性を保つという共通点があり、いずれもコラボ相手の魅力を生かしつつ、ユニクロの「LifeWear=生活を豊かにする服」という軸に合わせた企画になっています。

最近の注目事例:KAWS、JWアンダーソン、ピカソUT

ここ数年で注目されたコラボにも、同様の傾向が見られます。ユニクロを「長年のパートナー」と位置づける人気のアーティスト、KAWS(カウズ)は2024年にアンディ・ウォーホル美術館で開催された「KAWS+WARHOL」展に合わせ、ユニクロUTとのコラボコレクションを2023FWモデルとして発表。このコレクションではKAWSのキャラクターとウォーホルのモチーフを組み合わせたデザインのTシャツやコーチジャケットなどが登場し、全世界で発売されました。

英ブランドJWアンダーソンとのコラボレーションは、2017年から継続的に実施されています。デザイナー、ジョナサン・アンダーソンはユニクロとの協業について、「ファッションを民主化するという流れを信じている」と語っています。彼自身のブランドは高級路線ですが、「本来、服は排他的なものではなく、誰でも手にできる包括的な存在であるべき」と考え、ユニクロと組む意義を明示しました。実際、ユニクロとのコラボではJWアンダーソンらしい遊び心あるデザインを、ユニクロらしい高い技術力と手頃な価格(ダウンジャケットやニットも含め)が支えており、まさに「どんな世代でも着たいと思える服」がそろったコレクションとなりました。

2022年6月にローンチしたPEACE FOR ALL(ピース フォー オール)はユニクロのチャリティTシャツプロジェクトで、「世界の平和を願ってアクションする」という理念のもと、有志の著名人がデザインを提供し、その売上を寄付する仕組みです。2025年3月には画家パブロ・ピカソとのコラボレーションTシャツを発売。同時に4種の柄からなる「パブロ・ピカソ UT」も発売しました。

 

多くの美術館などで販売される公式アートTシャツは通常5,000~10,000円前後ですが、パブロ・ピカソUTは1,500円で提供されています。アートに普段触れない人や若い世代も手に取りやすいように、というUT担当者の想いが表れています。

そしてユニクロ40周年特別企画として、これまで好評を博したコラボアイテムを再販する動きがあり、2025年1月1日には伝説的コラボ「+J」からアウター2型・シャツ4型が復刻されました。当時の完成度の高いミニマルデザインを、現代に再編集する試みであり、往年のファンのみならず若い世代の注目も集めています。

コラボがもたらす多大なる文化的・経済的アドバンテージ

ユニクロのコラボレーションの独自性は、価格帯・時制・日常性の垣根を排除し、誰もが手に取れる形に編み込んでいる点にあります。ジル・サンダーやJWアンダーソンのラグジュアリーとユニクロが出会い、村上隆やKAWSのアートがドラえもんやウォーホルと組み合わせられ、マリメッコやピカソの作品が1,500円のTシャツになる──そうした対比と融合が、消費者に新鮮な驚きと文化的な気づきをもたらすのです。

 

これらは単なる「有名人とのタイアップ」ではなく、ユニクロという媒体(メディア)を通じて「文化的コンテンツを編集・再解釈し、日常に届ける」試みだと言えるでしょう。若い世代を含む生活者は、コラボレーションアイテムを着ることでアートやデザインに親しみ、新たなカルチャーとの出会いを得る。「服を編集して、自分らしいスタイルや物語をつくる」喜びを生み出しています。

 

ユニクロのデザイナー/カルチャーとの協業は、決算数字を大きく押し上げる経営施策としても機能しています。同社は2020年秋冬の「+J」復活において、発売初日にオンラインストアが一時停止するほどのアクセスを集め、2021年度第1四半期(20年9~11月)の実績は国内売上高が前年同期比8.9%増、営業利益55.8%増に達しました。2023年11月には「JW ANDERSON FW23」コレクションが既存店売上を大きく押し上げたほか、2024年9月に立ち上げた「Uniqlo :C」はウィメンズ層を呼び戻しました。

 

こうしたコラボ商品は定価販売比率が高く値引きを抑制できるため、粗利益率の改善にも寄与しています。ユニクロのコラボは「数量を稼ぎ、定価で売り、話題で客を呼ぶ」という三段構えで、既存店売上・オンライン流入・利益率という主要KPIを同時に引き上げるレバレッジ装置となっているのです。

 

ユニクロはコラボを通じて「今日の生活をより豊かにする」というLifeWearの理念を、文化的にもエコシステム的にも具現化しています。ユニクロのコラボは、服を介して文化やメッセージを編む(編集する)行為として成立しており、そこにこそ本質的な価値があると言えるでしょう。

   

参考文献: ユニクロUT公式サイトbijutsutecho.combijutsutecho.com、ファッションニュース記事vogue.co.jpsenken.co.jpvogue.co.jp、UTマガジンuniqlo.com、プレスリリースuniqlo.comなど。

 

Text:田中誠司

●プロフィール

 

田中 誠司(Tanaka Seiji) / PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役、PARCFERME編集長

 

自動車雑誌『カーグラフィック』編集長、BMW Japan広報部長、UNIQLOグローバルPRマネジャー等を歴任。1975年生まれ。筑波大学基礎工学類卒業。近著に「奥山清行 デザイン全史」(新潮社)。モノ文化を伝えるマルチメディア「PARCFERME」編集長を務める。