白か黒。零か百。“異質な何か”になりたい。
まずはモデルとして活動を始めることになったきっかけを教えてください。
昔からオタク気質で、おしゃれして自分をアウトプットして表現するというよりも、ひとりでインプットしている方が好きな性格でした。学校では髪が長くて、服はグレーとか黒の目立たない色で、いつもすみっこ暮らし。でもそのときの大親友が僕の顔やスタイルをすごく褒めてくれたり、「もったいないよ!」みたいに言ってくれたりしたんです。
最初はそう言われても受け流していましたが、2年ぐらいずっと言ってくれて。それもあって高3のときに勢いで履歴書を送ったら通って、そのままモデルの仕事をスタート。元々、おしゃれは服に興味があるだけだったので、着る楽しさ、纏う楽しさはモデルの仕事で目覚めました。
ご自身にとって思い切った選択かと思いますが、怖さはありませんでしたか?
今もですが自分は白か黒か、零か百で考えることがけっこう多くて。仕事をしているときも、カメラを向けられて自分で決めて進まなきゃいけない状況だと、「やらなきゃ」っていう意識が生まれる。それは決して無理しているわけではなく、モデルの仕事を経験していく過程で身についていった部分でもあるし、元から自分はそういう性格でもあるのだと思います。始めた当初はモデルという浮世離れした刺激が心地良くて、少しずつ社会性も身に付いていきました。
モデルを始める前に、何かしらで芸能の世界に興味を持ったことはありましたか?
表に出る仕事への興味はまったくなくて、どちらかというと裏方がいいなと思っていました。もともと絵をずっと習っていたのですが、それはゲームのコンセプトアーティストになりたくて描いていた部分が大きくて。でもモデルの仕事は、ある意味で期間限定的なものだなと思ったので、それであればそっちを優先した方が良いのかなと思って始めました。
モデルを始める前に、すでにメイクには興味を持っていたそうですね。
僕がメイクを始めたのは中学3年生のときです。元々はゲーム、その中でもホラーゲームが自分はすごく好きで。そこからとあるキャラクターのメイクをして、衣装も作ってみたことがきっかけで、ある種の変身願望的に、自分ではない“異質な何か”になれる楽しさに目覚めました。
自分の場合、最初からメイクに対する抵抗はありませんでした。小さいころから母や姉の影響で髪は長かったですし、自分がちょっと変わった格好をすることや、言い方は難しいけれど「奇妙だな」みたいに思われることへの恐怖もなくて。「別に何か言われてもいいや」という感覚で、ばっちりメイクをして学校に行って、そのたびに先生に怒られていました。
これまでの仕事の中で印象深い出来事や、自身の変化について教えてください。
モデルを始めてからしばらくの間、実はあまり精神的に良くなかったので、仕事をしているときだけは変身願望が満たされて、自分と向き合わなくていい時間でした。一方でモデルを始める前は、承認欲求や自己肯定感のようなものを保たなければいけない恐怖心はなかったけれど、それがモデルを始めてから徐々に湧いてくるようになって、SNSから離れた時期もありましたね。
それでも仕事を通して得られる楽しさや学びの方が多かったですし、服ってこんなに歴史があって、いろいろな人が着て楽しんでいて、ルールがないんだ──というようなことも知れました。思い返すとすごく貴重な時間でしたし、当時はけっこうがむしゃらだった記憶があります。
誰かを勇気づけられる、「吉井添」という表現
いま、添さんが影響を受けているモノ・ヒトはありますか?
モノに関しては、調べてもこれという名称は出てこなかったのですが、“懐古ホラゲ”ブームが来ています。“懐古ホラゲ”は2000年代初頭のホラーゲームで、たとえば『サイレントヒル』とか『SIREN』とか『バイオハザード』とかに登場するキャラクターのようなファッションが、リバイバルで今の10代の子たちの間で流行っていて。Y2K(=Year 2000の略。2000年頃に流行したファッションやカルチャー)のホラーゲームバージョンのようなイメージです。
自分はもともとそういう服装が好きだったので、ここに来て流行っているのはうれしいですね。あとそういうカタチで流行ると、結果的にゲーム自体も注目されるわけじゃないですか。そうやってゲームの知名度が上がり、リメイクが出るかもしれないって考えるとワクワクします。
ヒトに関しては、今の自分を構成するにあたってすごく重要な人物が、去年の間に3人も一気に現れました。その中のひとりが、益若つばささんです。きっかけとして自分はつばささんのコスメを使ったり、YouTubeを見ていたりしたのですが、あるときに自分をフォローしてくださっているのに気付いて。すぐにDMを送って、そこからつばささんとの交流が始まりました。
たまに遊んでくれる間柄になったのですが、会うたびに活力をもらえて、勉強になることも多いですし、言葉の説得力を感じる。そんな人物と今までなかなか巡り合うことがなかったので、そういった出会いのおかげで、ここまであまり壁にぶつからずに進めている感覚があります。
吉井添として大切にしていることを教えてください。
今の多様性の時代って否定もしないし肯定もしない、中間に立つみたいな無難な考えの人が多いですけど、僕はその人が率直に思った、そのままの言葉をぶつけてほしい。自分のような摩訶不思議な存在に対しても、上辺じゃない言葉がほしい。ファッションに関しても、自分は好きなものを妥協なく再現したい気持ちがあるからこそ、思いついたビジョンに向かって表現しています。
自分として一番うれしいのは、「この人ヤバいじゃん」「こんな格好して怖くないのかな」「でも私も勇気出してやってみようかな」と思ってもらうこと。自分がやりたいことを、やっていい範囲でやるところを見せて、誰かを勇気づけられたらいいなって。やっぱり否定の声の方が目立ったり大きかったりしますが、好きですって思ってくれている人がいるのを信じて、僕は表現しているので。内心はみんなに対して、「もっと好きって言っていいんだよ」って思っています。
現在の活動に関して、自分の中でメインとなるものは何ですか?
今は音楽をやっていきたいと思っています。歌詞も少しずつ書いてはいますが、その場で発した言葉に矛盾が生じて後悔するのがすごく嫌なので、ちゃんと選ばなきゃと思うとなかなか難しくて。曲に関してもベースは作っていますが、自分はこれまで音楽をやってきたわけではないですし、完璧主義なところもあるので、納得いくものができるまで出したくない。それでも時間は迫ってくるもので、そろそろ出さなきゃという焦りも正直ありますが、なんとか形にしたいです。
あとは〈OBSCURE CHURCH〉が今の自分にとって一番の居場所であり、表現する場なのかなって思いますね。どれだけ自分と向き合えるか、みたいなことを大事にしつつ、いろいろブログを書いたり、絵を発表したり、配信したりっていうのを自分らしくやっていきたいです。
吉井添という「表現者」としてチャレンジしていきたいことは?
やっぱり音楽。自分は音楽経験もないですし、歌も素晴らしい美声を持っているわけでもない。音楽に関しては自分に何が一番合うのかを長い間悩んでいましたが、最近はもう、動きながら成長した方がいいのかなという考えになりました。それに今作っている曲はどれもすごく愛しているので、それは良かったなと思います。世間受けするかは未知数ですけど、すごく謎な自信だけはあって。誰かのためというより自分のため。それを自分と近い存在の方たちに聴いてほしい。
メイクもファッションも、吉井添の考え方のベースは、あくまで自分。奇抜なファッションやメイクを纏い、まるでファンタジーの世界から飛び出してきたような存在は、他者の目や世間の基準、社会の流行ありきではない。むしろそこからピュアに逸脱しているからこそ、願望を叶えてくれるアイコンとして、憧れの対象となっているのだろう。インタビューの後編では、「吉井添をつくるエッセンス」と題して、自身の“らしさ”を引き出すために大切なことを探っていく。
Photo:Ryoma Kawakami
Interview&Text:ラスカル(NaNo.works)
吉井 添
Yoshii Ten
2001年11月11日 東京生まれ、長野育ち。2019年からモデル活動を開始し、多くのファッション雑誌への出演、ブランド広告にも起用される。 フォトジェニックな顔立ちと183cmという長身と細身のスタイルを活かし、幅広いファッションを着こなす。 またイラスト画を得意とし、そのイラストがアパレルブランドとのコラボ商品として採用されるなど、多才な才能を発揮する。幅広く活躍するマルチアーティスト。