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お笑いとファッションの融合点。往来する都築拓紀のスタイル。

お笑いと服づくり、異なる脳で紡ぐバランス

“お笑い”と“ファッション”。異なるふたつの世界を往来しながら、そのどちらにも自らの軸を見出してきた「都築拓紀」。2023年にスタートしたHIROKI TSUZUKIに関しては、シーンやトレンドに迎合せず、自らの原体験と好きという感覚に根ざしたものづくりを大切にする姿勢から、ブランドが持つ独自性と可能性がうかがえる。後編のインタビューでは、都築拓紀の芸人とデザイナーでの思考の違い、影響し合わないからこそ保たれるバランス、心のスイッチを切り替えながら活動を続けるスタイルについてインタビュー。現時点でHIROKI TSUZUKIが目指すスタイルについても語ってくれた。

芸人とデザイナーで異なる心のスイッチ

後編のインタビューでは、都築さんのよりパーソナルな部分に迫っていきたいと思います。まず都築さんにとって芸人とデザイナーで、ものづくりの思考は変わりますか?

さすがに変わりますし、お笑いの作り方は正直わからない。ハハハ! 相方に任せっきりだし、お笑いはプレイヤーで、ファッションでいうところのモデルみたいなものですね。できあがったものを着させてもらっている感覚で、ものづくりっていうことで話すなら違う脳みそなんだと思います。

いまの話だと芸人はプレイヤー側で、デザイナーはクリエイター側ということになりそうですが、結果的にそれぞれでやっていることが影響し合うというよりは別物ですか?

これはもう正直な話、まったく影響し合わないです。ただ原動力にはなりますね。例えばスカジャンの加工などに追われているときに、お笑いライブの仕事があると楽しくてデザイナーの方も頑張れるし、逆にお笑いでうまくいかない収録とかしんどい仕事があっても、服を作ることで頑張ろうと思える。それぞれの良さを感じられることで、飽きずにどっちも頑張れる面はあります。芸人とデザイナーはまったく違う世界線で、そのふたつが寄り添うことはないですが、行き来するのは楽しいですね。

どちらかの活動にメンタル面を引っ張られるみたいなこともなさそうですね。

ないですし、切り替えられる。こっちがしんどいときは、あっちが楽しいみたいな。そういう意味でいわゆる二足のわらじを、僕の中で飽きずに頑張れている。そんないまの環境があることは自分にとっていいことですね。どちらもいい時間の使い方ができて、バランスも取れてきた気がします。
 
さらにこの先、自分の中でそのふたつが組み合わさる瞬間があれば、カルチャーとしてもっと面白いことができるかもしれない。でも現時点で自分にそんな技術や発想力はないので、分けざるを得なくなっているっていうのはあるかもしれない。もっと一緒に考えられれば広がる部分もあるはず。

ちなみに四千頭身の後藤さんと石橋さんに、デザイナーとしての活動についてどう思っているのか聞いたことはありますか? なかなか相方に聞くことはないのかなと思いますが。

ないし、どうですかね……でも今回の25SSの黒いTシャツとかは相方たちに渡しました。「いる?」って聞いたら「もらおうかな」みたいに言ってくれたので。ファッションの話とかも基本的にしないですけど、感覚的に僕がブランドを始めたばかりのときよりは理解してくれている気がします。僕がそういう扱われ方というか、ロケとかで「最近ブランドやられてますね」みたいなトークになることも増えたので、そうなっている以上は飲み込まざるを得なくて飲み込んでくれているのかなと。

都築さんにいい影響が出ていればOKという感じなのかもしれませんね。

そうですね。あと僕にとっては脳のスイッチは一緒だけど、心のスイッチを切り替えられることで、バッテリーが長持ちしている感覚はあります。たぶんどちらかだけをやっていたら、もう消耗しきっていたでしょうね。どっちもあって良かったし、好き勝手させていただいて各方面に感謝です。

ブランドに関しては、始めるきっかけとなったスタイリストのTEPPEIさんやyutoriのみなさんも含め、ここまでのチームとしての手応えはどのように感じていますか?

基本的にはもともとが飲み友というところがベースにあって仲がいいって部分も大きい気もしますが、みんな本当に服が好きで、お互いに対するリスペクトもあるチームでやれる環境はありがたいなと。お互いの意見を尊重して、フラットに意見交換もできる。同い年とか同世代でやっていて、僕が出したアイデアに対しても意見を出し合えるのが、妥協なくいいものを作れる理由かもしれないです。

トレンドよりも発想を重視したものづくり

都築さんがいま注目しているシーンやトレンドがあれば教えてください。

うーん……トレンドに関しては、正直なところ注目しているものはまったくないですね。自分は世間に対して興味がなさすぎるというか、疎すぎて、いまなにが流行っているのかわからない。
 
例えば25SSでやったシルクスクリーンとかも、スカジャンでやったときの手作業感に対する周りの反応が良かったのと、たまたまお世話になっているブランドの人のポップアップでシルクスクリーンをやっているのを見たときに、「そっか、自分で刷るっていう手段もあるのか」みたいなアイデアが脳裏にあったので、じゃあ自分でしようと。ワンチャンすべて手作りとなったら、いいパフォーマンスにもなるかもしれないみたいな意図もあって、トレンドを意識したわけではまったくないんです。

それでは、都築さんがトレンドよりも大切にしていることはなんですか?

シルクもそんなにたいそうなことじゃないし、どこかで誰かがやっていたことだけど、必ずしもそういうことに詳しい人ばかりではない。ファッションの文化が盛り上がるときも、結局はイケてるブランドがやっている小さなことから始まっていたりしますし。それがいま、僕を通してまだ小さなコミュニティでも起きているということになったら、カルチャーとしてちょっと面白いかなと思います。
 
結果的に少し後付けっぽくもなりますが、ストリート文化が好きな僕の中で、HIROKI TSUZUKIを通してやっていることと自分の発想や好きなものが現時点では乖離していない。真新しくはないけど、正面からやっている人ってそんなにいないし、自分はそれでいいかなって考えています。

シルクスクリーンで刷るアイデアに関しては、ポップアップストアなどでただ服を買うだけではなくて、自分も参加できる遊びのような要素に楽しさがあるなと感じました。

めちゃくちゃしんどかったですけどね。結果的に「なんてことを言い始めちゃったのか……」となりましたけど、実際に刷った人の満足度はあったのかなと思います。それでも本当にお釣りが出ないぐらいにしんどかった。レセプションは自分で声かけて集まって来てくれたみなさんとの情報交換の場にしたかったけど、シルクスクリーンに付きっきりになっちゃってなかなか会話できなかったし。
 
それでもやった感触としては良かったし、SSでやめるわけにはいかないからAWもやることにはなるでしょうけど、ちょっとやり方を考えます。とにかく版がデカすぎた! 裏のでっかい蛇口まで持っていかないと洗えなくて待ちが出てしまったので、次はその点を改善しようかと考えています。

25AWで考えているテーマや構想など、言えるものがあれば教えてください。

まだ構想すらもない! でも同じくシルクを使ってとかもそうですし、単純な規模感を大きくできたらいいなとは思います。SSは名古屋・福岡など、東京以外の都市でもやれて、たくさんの人が来てくれたので。引き続きできる場所はやりたいし、この前はできなかった都市でもやれたらいいねっていう話はしています。ただ場所も抑えていなければ、スケジュールもどうなるかわからないのでこれからですね。
 
アイテムに関しては、SSでさまざまな場所に行ってその中でフィードバックはありましたが、いろいろな人を見た上で、僕の脳内で思うことはあるのでそれをカタチにしていきたいです。

これからの展望として、HIROKI TSUZUKIをどんなブランドにしていきたいですか?

ブランドとしては、まずSSがチームとして盛り上がって、一緒にやらせてもらっているyutoriの方々からもいい評価をいただけました。僕自身、利益のためにブランドを始めたわけではないけれど、やっぱりお金を出してもらっていて、お金を払って買ってくれている人たちがいる以上は、生々しい話ですけどそこを生むことにも正義はあると思うので。そういうこともより意識しつつ、チームがいて関わってくれている人がいる以上はブランドが大きくなるという満足や評価もありますし、それは関わってくれている人への恩返しという意味も含めて、もっと貪欲にやっていきたいと考えています。
 
あとベタにどこかでコレクションのショーなどをちゃんとやれるようになったら面白いなとは考えていて。ある意味、さっき言ったみたいな“お笑い”と“ファッション”が重なるぐらいのところまでいったときに、初めて自分の中で整理がつくかな、答えが見つかるかなと思っています。

芸人としての現場と、デザイナーとしての創作。それぞれで都築拓紀は自分の歩みを肯定し、日々を楽しむ力に変えている。“お笑い”と“ファッション”は直接的に交わらない。それでも片方がうまくいかないときに、もう片方が心を救ってくれる。そんな関係性の中で培われたバランス感覚こそ、彼が二足のわらじを無理なく履きこなせる理由。それでも都築拓紀のふたつの顔は、まだ重なりきってはいない。いずれその“交差点”にたどり着いたときに、彼は新たな答えを示してくれるに違いない。

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HIROKI TSUZUKI ブランドサイト
 

Photo:Kyohei Nagano
Interview&Text:ラスカル(NaNo.works)

四千頭身 都築 拓紀(つづき ひろき)

1997年3月20日生まれ、茨城県出身。 2016年に後藤拓実、石橋遼大とともにお笑いトリオ・四千頭身を結成。 現在、日本テレビ「有吉の壁」、FM FUJI「四千ミルク」、ラジオ大阪「四千頭身 都築拓紀のサクラバシ919」などにレギュラー出演中。

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